医師が患者さんの病気を診断し治療するためには、患者さんの体の状態を知らなければなりません。体の状態を知るために医師は診察し、それを確かめるために臨床検査が行われ病気の診断だけではなく、治療方針の決定や経過を観察するためにも行われます。また、健診などで病気を未然に発見するためにも重要な役割を担っています。臨床検査は、患者さんから尿、血液、痰、組織などの検体(材料)を採取し、それらを化学的あるいは形態学的に検査する「検体検査」と、患者さんを直接検査する「生理機能検査」の2つに大きく分かれます。
当院の検査部は検体検査を行う生化学・免疫検査課、血液・輸血検査課、微生物・一般検査課と生理機能検査を行う生理検査課で構成され、医師1名、臨床検査技師18名(パート職員1名含む)と助手1名の体制で日々の業務を行い、夜間、休日を含め24時間体制で依頼された検査を迅速かつ正確に報告できるよう努力しています。
毎年参加している日本医師会や日本臨床検査技師会の外部精度管理調査では高い評価を得ています。また、中央採血室での外来採血、糖尿病教室、NST、院内感染対策などのチーム医療にも検査の専門的知識を生かし参加しています。
※当院の病理部門は病理診断科部(病理・細胞検査課)として独立し、病理医1名、臨床検査技師3名、助手1名の体制となっています。
詳しくはホームページの「診療科の紹介」にある「病理診断科」をご覧下さい。
この検査は人体試料(各種体液、排泄物、組織など)を、主に自動分析装置を用いて測定しています。
疾患の診断や、治療による経過、予防のための情報を臨床に提供して、病態や病因の解明を行うことを目的とするものです。
当検査室における、検査頻度の多い項目には下記のようなものがあります。
生化学検査: 自動分析装置 東芝 TBA-FX8
検査項目 | 略語 | 基準値 | 検査項目 | 高値 |
C反応性蛋白 | CRP | ( − ) | 炎症マ−カ− | 感染症等 |
クンケル | ZTT | 6〜12 | 肝機能スクリ−ニング | 慢性肝炎等 |
総ビリルビン | T-BiL | 0.2〜1.2 | 黄疸の診断 | 肝疾患等 |
血 糖 | GLU | 70〜110 | 糖尿病診断及び経過説明 | 糖尿病 |
ヘモグロビンA1c | HbA1c | 4.6〜6.2 | 糖尿病治療のコントロール | 糖尿病等 |
中性脂肪 | TG | 40〜145 | 脂質代謝異常の診断 | 家族性高リポ蛋白血症 |
総コレステロ−ル | T-CHO | 120〜220 | 高脂血症の指標<動脈硬化のスクリーニング | 本態性家族性高脂血症、動脈硬化症 |
尿素窒素 | BUN | 8〜20 | 腎機能の指標 | 腎機能障害、腎不全等 |
クレアチニン | CRE | 0.4〜1.1 | 腎障害の指標 | 腎不全、尿毒症 |
尿 酸 | UA | 3.7〜7.6 | 腎機能、痛風のチェック | 痛風、腎不全等 |
ナトリウム | Na | 137〜148 | 体液水分量の平衡状態 | 脱水症、嘔吐等 |
カリウム | K | 3.8〜4.8 | 浸透圧及び酸塩基平衡 | 急性腎不全、アジソン病 |
クロール | CL | 99〜107 | 他の電解質との相互関係 | 脱水症、嘔吐(低値) |
無期リン | P | 2.5〜4.5 | 骨への貯蔵と溶出、腎からの排出などのスクリーニング | 腎不全(慢性、急性) |
カルシウム | Ca | 8.8〜10.2 | 心臓の規則的収縮、筋収縮、神経の興奮 | 原発性副甲状腺、ビタミンD欠乏(低値) |
血清鉄 | Fe | 80〜200 | 造血機能のチェック | 再生不良性貧血、急性肝炎等 |
総鉄結合能 | TiBC | 290〜350 | 鉄代謝異常の診断及び病態の把握 | |
不飽和鉄結合能 | UiBC | 血清鉄とともに貧血などの鑑別診断 | ||
リパーゼ | LiP | 8〜49 | 膵疾患診断の指標 | 膵炎(急性、慢性) |
アミラ−ゼ | AMY | 39〜107 | 膵疾患のスクリーニング | 膵疾患(急性、慢性) |
クレアチンホスホキナーゼ | CPK | 29〜243 | 組織細胞の障害 | 進行性筋ジストロフィー症、多発性筋炎、急性心筋梗塞 |
GOT | GOT | 8〜38 | 肝疾患、心疾患の指標 | 肝炎、肝硬変、心筋梗塞 |
GPT | GPT | 4〜44 | 肝胆道疾患の指標 | 肝炎、肝硬変、アルコ−ル性肝炎 |
LDH | LDH | 103〜211 | 肝疾患、心疾患の指標 | 肝疾患、心疾患 悪性腫瘍 |
アルカリフォスファターゼ | ALP | 104〜338 | 肝、胆道疾患のチェック | 急性肝炎、肝癌等 |
γ−GTP | γ−GTP | 16〜73 | 肝、胆道疾患のチェック | 胆道閉塞、急性肝炎、アルコ−ル性肝障害 |
コリンエステラーゼ | CHE | 203〜406 | 肝疾患の重症度の指標 | 脂肪肝、ネフローゼ症候群 |
総蛋白 | TP | 6.5〜8.3 | 蛋白異常のスクリーニング | 脱水症、慢性感染症 |
アルブミン | Alb | 3.8〜5.1 | 肝障害のスクリーニング等 | ネフローゼ、重症肝疾患 |
HDLコレステロール | HDL-CHO | 41〜80 | 動脈硬化の指標 | 動脈硬化症(低値の時) |
LDLコレステロール | LDL-CHO | 70〜139 | 動脈硬化の指標 | 家族性高コレステロール血症 |
※ 基準値については、施設により異なる場合もあります。
※ 基準値の単位は画面の都合上、省略しております。(単位により基準値が大幅に変わることもあります。)
※ 検査目的、高値の目的は主なるもののみの説明です。
※ 詳細については、担当医にお尋ね下さい。
どうして”一般検査”と呼ぶようになったのかはよく解りませんが、尿を中心に、便、髄液などを検査している所です。
尿に糖や蛋白が出ていないか、出血がないかなどを試験紙で調べる以外に、尿沈渣(ちんさ)といって、顕微鏡で炎症や腎臓などからの出血がないかを調べています。膀胱炎のように炎症が起きると尿に赤血球や白血球が出てきます。
また、尿中の細胞から癌が見つかることもあります。
便検査では、消化管の出血の有無を調べたり(便潜血検査)、寄生虫卵や原虫の有無を調べます。
髄液検査は、髄膜炎などの迅速診断並びに治療効果の判定には欠かすことの出来ない検査です。髄液は、脳脊髄に存在する水様透明の液体で、糖や蛋白を測定するとともに顕微鏡で細胞の数を数えたり、その種類を観察します。
その他、穿刺液検査で胸水、腹水、関節液などを調べています。
<どのような検査が行われるのか>
1.一般検査
(1) 尿量、尿の外観(色調、混濁)、比重、浸透圧、反応(PH)等
(2) 蛋白、糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、アセトン体 等
(3) 尿沈査の顕微鏡検査 等
2.生化学的定量検査
(1)17−KS、クレアチニン、Na、K、CL、Ca、等
(2)アミラ−ゼ等の酵素活性値
3.細菌検査
(1) 尿塗沫検査および培養検査
(2) 尿定量検査
4.妊娠反応
(1) 免疫学的妊娠反応 等
5.細胞診
<どのような病態を反映するのか>
1.尿の物理的性状の変化
いろいろな病態を反映して尿の物理的性状の変化が見られる。とくに尿量と尿比重(屈折率、イオン強度、浸透圧)は腎機能を反映する重要なものです。
2.尿に含まれる化学的成分の増減
(1) 血液成分の変化 − 腎前性変化
腎に異常がない場合であっても、全身的疾病があって血液成分が変動し、病的に増加した低分子成分が糸球体基底膜を通過して尿中に増量する場合である。例えば、糖尿病の場合に血液中のブドウ糖が増加して、腎排泄閾値を越えると、ブドウ糖が尿中に増加して糖尿となる。
(2) 糸球体性変化
腎機能は大きく腎糸球体の機能と尿細管の機能とに分けられるので、腎性変化はさらに糸球体性変化と尿細管性変化とに分けられる。
(3) 尿細管性変化
尿細管上皮の機能がいちじるしく侵される場合、例へば、カドミウム中毒などでは、再吸収されるべき成分が十分再吸収されないために、尿中へ排泄量が増加することになる。
(4) 尿路障害による変化−腎後性変化
尿路に基礎疾患がある場合と、尿路以外の病変が尿路に波及する場合がある。いずれの場合でも、尿路の障害によって尿の化学的成分に変化が表われるとれば、尿成分の変質、尿路の出血、尿路のリンパ漏,他の臓器との間に病的に交流ができ、そこから異常成分が混入する場合のいずれかが考えられる。
(5) 細胞成分、微生物の確認
尿路から剥離した細胞性分、析出した結晶、細菌や寄生虫などを尿沈査中に確認することによって診断にきわめて有用である。
<主な尿検査値> ( 以下は高頻度、又は可能性としての説明です )
尿比重 | 基準値:1.015〜1.025 高値(1.030以上):脱水、糖尿病、ネフローゼ症候群 低値(1.010以下):慢性腎不全、急性腎不全の利尿期 |
尿蛋白 | 陰性、陽性(1+、2+、3+) 陽性:慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症等 |
尿潜血 | 陰性、陽性(1+、2+、3+) 陽性:糸球体腎炎、間質性腎炎、尿路感染、尿路結石、尿路腫瘍 等 |
尿糖 | 陰性、陽性(1+、2+、3+、4+) 陽性:糖尿病、胃切後、甲状腺機能亢進症 等 |
尿ウロビリノーゲン 尿ビリルビン |
ウロビリノーゲン:陰性、(±)〜(+) ビリルビン:(−) 陽性:急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変等 |
尿ケトン体 | 陰性、陽性(1+、2+、3+) 陽性:飢餓、糖代謝異常、嘔吐、下痢 |
亜硝酸塩 | 陰性、陽性 陽性:尿路感染症等 |
<尿沈渣> ( 顕微鏡強拡大×400の場合 )
赤血球 | 1個/1視野以内は正常 陽性:慢性糸球体腎炎、急性糸球体腎炎 等 |
白血球 | 1〜3個/1視野以内は正常 陽性:腎、尿路系の感染症 等 |
上皮細胞 | 1個以下/10視野、扁平上皮は正常でも見られる 陽性:扁平上皮細胞(尿道、外陰部由来)は病的意義がない その他の上皮の増加は尿細管障害、尿路の炎症、腫瘍等。 |
円柱 | 1〜2個/全視野以内、硝子円柱は正常でも見られる 赤血球円柱(糸球体腎炎)、白血球円柱(腎盂腎炎、間質性腎炎等) |
細菌、真菌、原虫 | 尿路感染症、カンジタ症、皮膚糸状菌、膣トリコモナス 等 |
便は、口から摂取した飲食物に消化液が混入し、胃腸管において消化、吸収された残渣からなっている。正常状態では胃腸管を通過する水分量は10Lにも達するが、そのほとんどが吸収されるために、1日にわずか200mL程度の水分を含む固形便として排出される。従ってこれら胃腸管及び、その周辺の疾患が疑われる場合には便検査が行われる。
便の肉眼的検査は、排便後ただちに医師あるいは看護師によっておこなわれるのが普通であり、きわめて重要な情報を与えてくれる。
ここでは、便の肉眼的性状と潜血反応検査を中心にまとめてみます。
形、硬さ | 病的には下痢便、水様便、硬便等 |
便量 | 通常1日1〜2回、100〜250g |
通過時間 | 24〜48時間で72時間以内に排出される |
色調 |
黄色便 → 下痢便、脂肪便、薬剤の服用 緑色便 → 下痢便、大量の葉緑素含有食品の摂取 黒色便 → 消化管出血、鉄剤などの服用 赤色便 → 下部消化管出血 灰白色便 → 胆道閉塞、バリウム服用 等 |
粘液、膿汁 | 腸管の炎症または感染症 |
■ 便潜血(便中ヘモグロビン)
基準値:化学的便潜血検査(グアヤック法、オルトトリジン法) 陰性
免疫学的便潜血検査(ラテックス免疫比濁法、EIA法、金コロイド凝集法) 陰性
■ 化学的便潜血検査
薬剤や食事制限の不良
口から肛門に至る消化管(主に上部消化管)における炎症、出血、潰瘍、ポリ-プ、癌、静脈瘤 等
■ 免疫学的便潜血検査
前述の化学的検査の場合と同じであるが、免疫学的検査は下部消化管疾患の検出率は高くなり上部消化管の検出率は低くなる。
■ 異常値のでるメカニズムと臨床的意義
上部消化管において出血が生じた場合、血液中のヘモグロビンは胃液や十二指腸液で変性を受け、さらに腸管粘膜および細菌によって分解、変性を受ける。化学的便潜血では、変性ヘモグロビンも反応するので、消化管のどの部分での出血も検出される利点をもつが反面、食事や薬剤の影響も受けるため面倒な食事制限が必要となる。一方、免疫学的便潜血検査はヒト以外のヘモグロビンと反応せず食事制限を必要としないが、変性ヘモグロビンと反応しないので上部消化管における出血の検出率は低い。
一部臨床検査誌より抜粋
※基準値については、施設により異なる場合もあります。
※検査目的、高値(陽性)の目的は主なるものの説明です。
※詳細については、担当医にお尋ね下さい。
血液は血球という有形成分と、これを浮かべている液体の無形成分からなります。
血球はその性状により赤血球、白血球、血小板に分けられます。さらに白血球は形態から好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球の5分類に分類され、百分率で表し、それぞれ基準の比率があります。これらは種々の生理的、病態で変動します。
当院の血球算定検査では自動血球測定装置「ADVIA2120i」(シーメンス社)を2台使用し、個々の血球の数や大きさ、血球に含まれている物質濃度、白血球分類等を測定し、異常がないかを検査しています。
血球は健康な状態ではある程度一定の形に保れていますが、病気などになると形に変化が起こりこれらを詳しく顕微鏡などで観察します。
<顕微鏡による形態観察>
血球算定検査で異常が認められた場合は血液塗抹標本(スライドガラスに血液を薄く塗り特殊な染色をした標本)で赤血球、白血球、血小板を詳しく観察します。
■ 赤血球
核をもたず、上下両面中央部がゆるやかにくぼんだ円盤状の型をしています。平均直径7.2〜7.8μm、平均厚径1.7〜2.2μm(1μm=1/1000mm)平均寿命は約120日、内容は均一で2/3は水分、1/3はヘモグロビンです。大きさの変化(大小不同)、染色性の変化、形の変化、封入体、寄生虫などに注意して観察します。
■ 白血球
白血球は核の形、細胞の形により正常では顆粒球、単球、リンパ球に分類され、顆粒球はさらに細胞内の顆粒により好中球、好酸球、好塩基球に分類されます。大きさは種類により違いますが、顆粒球は11〜17μmで、好中球は内部に小さな顆粒を持ち、好酸球は大きなオレンジ色の顆粒を、好塩基球は紫色の顆粒をもち、それぞれ機能が違います。
細胞質の異常、核の異常、顆粒の異常などに注意して観察します。
血液細胞は骨(骨髄)ででき、骨髄中には幼若なものから成熟型まで種々の段階が 混在しますが、血液中には通常、成熟型のみが存在します。正常では幼弱な細胞は血液中に出現することはほとんどなく、これらの幼弱な細胞を特に注意深く観察します。
■ 血小板
骨髄中の巨核球の細胞質がちぎれてできます。血小板は血液細胞なかでもっとも小さい細胞で、骨髄中の巨核球の細胞質がちぎれてできます。核をもたず、円形か卵円形ときに曲玉形そのほか不正形を、内部に顆粒を持っています。大きさ1〜4μmです。
大きさの変化(大小不同)、染色性の変化、形の変化、顆粒などに注意して観察します。
骨髄は骨髄腔内の骨梁の間、簡単に言うと骨の中心部に存在します。
骨髄検査は骨髄穿刺により吸引して得られた骨髄液から骨髄塗抹標本(スライドガラスに骨髄液を薄く塗り特殊な染色をした標本)を作製し、異常細胞などを観察し、白血病や貧血などの血液疾患の検索や治療効果の判定のために検査します。
輸血療法は血液中の成分が血液の病気により正常に血液が造れなくなるなどの機能的に低下した場合や、出血によって血液量がたくさん減ってしまった場合などに行う補充療法です。輸血は一定のリスクを伴うことから、安全かつ適正な輸血を行うために必ず輸血検査を行います。
■ 輸血検査
輸血検査には主にABO血液型・Rh(D)血液型、不規則抗体スクリーニング検査、交差適合試験があります。
■ ABO血液型・Rh(D)血液型検査
ABO血液型検査では抗血清試薬を用いて血液中の赤血球にあるA抗原及びB抗原の有無を調べるオモテ検査と、血球試薬を用いて血液中の無形成分【血漿(血清)】から抗A及び抗B抗体の有無を調べるウラ検査行い、結果が一致していれば血液型が確定されます。
Rh(D)血液型検査はABO血液型検査のオモテ検査と同様で抗血清試薬を用いて赤血球のRh(D)抗原の有無を調べます。
■ 不規則抗体スクリーニング検査
ABO血液型検査で調べる抗A及び抗B抗体の他に不規則抗体と呼ばれる抗体があり、輸血上問題となる場合があります。不規則抗体スクリーニング検査では輸血が安全に行われるために不規則抗体の有無を調べます。
■ 交差適合試験
交差適合試験は、輸血を受ける患者様(受血者)と輸血用血液製剤(供血者)の適合性(使用予定の輸血用血液製剤に対して輸血上問題となる抗体などを保有していないか等)を調べる、輸血前の重要な検査です。
<細菌検査とは>
顕微鏡で見える生物を微生物と言います。その微生物は大きさや構造から原虫、真菌、細菌、ウイルス等々に分類されます。細菌検査とは、主としてその内の細菌について調べる検査を言います。
<細菌の病原性について>
地球上には無数の細菌が存在します。人に対して有害に働く物、それ自体はまったく人に無害な物、人と共生し時て時に有益に働く物、など多種多様ですが、体内の免疫力の低下している病人にとっては健常人にはまるで無害な菌でも有害に働く可能性を秘めています。 これを日和見感染症といい、あらゆる細菌がその原因菌となりえるのです。
この事を考えると現在の状況としては、検出された細菌の有害性はもとより、その細菌が本当に患者からの物なのか、途中で混入した物なのかを見極める事の重要性が増しているといえるでしょう。
<実際の仕事について>
患者さんから届けられる検査物(=検体という)は、いろいろな物があります。例えば尿、喀痰、便、膿、血液、髄液、胆汁等々、患者に由来する物なら何でも持ち込まれます。
初めに、提出された検体に細菌が居るかどうかを調べます。これを培養検査といい、少なくとも1〜2日程度は必要とします。次に、菌名を決定するための検査をします。これを同定検査といい、やはり1〜2日程度必要です。続いて、同定検査と同時進行でどんな薬剤(=抗生物質という)が効果があるかを調べる検査をします。これをを感受性検査といい、やはり1〜2日程度必要です。最後に結果を提出して終了となります。
<検査の流れ>
1.塗沫・鏡顕
検査材料をガラス板に塗りつけ、顕微鏡で細菌の有無、形、数などを観察します。
2.分離・培養
便や喀痰など検査材料の種類や、目的菌・予想される菌によって培養条件を選んで培養します。
3.同定
培養された菌の形・性質などにより菌の名前の見当をつけ、同定培地で培養後、菌の名前を決定します。
4.感受性検査
同定された細菌にはどういう薬剤が効くのか、また効かないのかを調べます。
<検査にかかる日数>
細菌の種類にもよりますが、通常は3〜4日かかります。また、結核菌は発育速度が非常に遅いため、最終報告は約2ヶ月後になります。
グラム染色はChristian Gramによって1884年に開発された細菌染色法である。
現在でも最も広く使われている優れた染色方法である。その基本的な手技は現在でもほとんど変わっていない。この染色法により、細菌を濃青紫色紫色に染まるグラム陽性菌と、薄い赤色に染まるグラム陰性菌に染めわけることできる。ほとんどの細菌はグラム陽性か、陰性に大別できるので、細菌の分類や同定のもっとも重要な性状として欠く事ができない。顕微鏡をのぞくといろいろな形態の細菌が見られる。それは球菌であったり桿菌であったりする。
球状の菌は直径1μmのものが多く、棒状の菌は2〜4μmのものが多い。
中でも、球菌が数珠状になっているものを連鎖球菌、ブドウの房の様になっているものをブドウ球菌と呼ぶ。
グラム染色は細菌をクリスタルバイオレット染色した後、アルコールで脱色されず、紫色に染色されるのが、グラム陽性菌。いったん脱色され、フクシンによる後染色で赤色に染色されるのが、グラム陰性菌である。細菌の中にはグラム不定細菌と呼ばれる細菌もありグラム染色に対して、あるときは陽性、あるときは陰性にと一定の染色性を示さない場合もある。グラム陽性菌にはブドウ球菌属、レンサ球菌属、クロストリジウム属等があり、グラム陰性菌に含まれるものには腸内細菌科、ビブリオ科、シュードモナス科などがある。
グラム染色標本はどのような検査材料でも治療方針を決定するためにきわめて有用なもので感染症に関する多くの有益な情報がある。したがって、貪食細胞、炎症性細胞の存在を判断できる標本を作製する事が必要であり、明確な貪食像が認められる場合は直ちに所見を連絡すれば、治療方針の決定に有用である。
<ピロリ菌>
■ ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリは1982年、オーストラリアで発見された胃の中に生息する細菌で、感染経路ははっきりとは解明されていませんが、最近、このピロリ菌は「慢性胃炎」や「胃・十二指腸潰瘍」と深く関係していることが分ってきています。
胃酸のような強力な酸の中には細菌は存在しないと信じられてきました。しかし、この菌は胃の中にある尿素からアンモニアを作り出し、身のまわりの酸を和らげて生きているのです。この「ピロリ菌」、最近新聞等でお目にかかることも多くなりましたが、Helicobacter pyloriが正式名称です。ヘリコ(らせん型)、バクター(細菌)、ピロリ(幽門部)で胃の出口付近の幽門部に好んで住み着くらせん型の菌と理解することができます。
■ どのようにしてピロリ菌に感染するのか
ピロリ菌は口を経由して胃の中に感染します。ピロリ菌に感染するのは通常5歳以下の乳幼児期で、成人になってから感染することはほとんどありません。例えば、排便後に手を洗わず、その手で食事をしたりすることで感染することが言われています。また、先進国では感染率が低く、発展途上国では高いことから、衛生状態の悪い環境で糞便や水を介して感染するものと推測されています。日本は、ピロリ菌の感染率が高く、国民の2人に1人が感染しると言われており、40歳以上では、約7割が感染しています。これは、戦前・中・後に乳幼児期を送った年代の人々ていの感染率が高いというわけです。
<セラチア>
■ セラチアとは
セラチアは、大腸菌や肺炎桿菌などに近い細菌で、正式には”Serratia marcescens”という学名で表記されます。赤い色素を産生する株もあり、パンがキリストの血で赤く着色するキリスト教の故事に因んで「霊菌」と呼ばれることもあります。
糞便や口腔などからしばしば分離される常在菌の1種ですので、この菌が分離されたからといっても、ただちに「異常」や「病気」と言う分けではありません。
■ セラチアによる感染症
セラチアは、蜜蜂に感染すると、蜂が死ぬ事がありますが、人に対しては弱毒性で、健常者の場合、セラチアが皮膚に付いたり、たとえ口から入っても、腸炎や肺炎、敗血症などの病気(感染症)になることはありません。セラチアの感染が問題となるのは、手術の後や重篤な疾患などが原因で感染防御能力が低下した際の感染症(いわゆる日和見感染症)で、特にセラチアが血液、腹水、髄液などから分離される場合です。そのような場合には、セラチアが産生するエンドトキシンにより血圧が急激に下がったり(ショック状態)また、その結果、腎臓や肝臓の機能が障害され、「多臓器不全」という状態に陥ると、死亡する危険性が高くなります。
■ セラチアが血液などに侵入する原因や経路
(1)内因性感染症
癌の末期や極度の免疫不全状態などの際、腸管からの細菌の侵入を阻止しているバリアの機能が低下し、腸管内に常在している菌が血液中に侵入し、菌血症や敗血症を引き起こす場合。
(2)感染症に伴う場合
腎盂炎などの際に腎臓から血液中に菌が入る場合や、重症の肺炎や術創感染症などに伴って、菌血症や敗血症になる場合。
(3)外因性感染症
セラチアにより汚染された注射剤や輸液ルートが原因で、血液中に菌が人為的に送り込まれる場合。
<MRSA>
■ MRSAとは
MRSAは、メチシリン・レジスタント・スタヒロコッカス・アウレウスの略語で、メチシリン(抗生物質の名称)に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌を意味する英語名に由来しています。
黄色ブドウ球菌はグラム陽性球菌の一種で、化膿性炎(皮膚化膿疾患、中耳炎、結膜炎、肺炎)、腸炎(食中毒含む)など創傷感染、呼吸器感染、消化器感染の原因菌です。
MRSAは、黄色ブドウ球菌の治療薬のβ(ベータ)ラクタム系抗菌剤(ペニシリン、メチシリン、クロキサシン、オキサシリン、第1・2・3世代セフェム)に耐性を獲得したもので、ファ−ジを介したrプラスミド (ミニプラスミド)上の耐性遺伝子や由来不明の転移性遺伝子mec(メック)Aで伝搬されます。
MRSAは1961年に英国で最初に報告されました。米国では1970年代に、国内では1980年代になって報告されるようになりました。MRSA出現の背景には、医療現場での抗生物質の乱用が指摘されています。
現在は多剤耐性MRSAが主流となり、その治療の切り札としてバンコマイシンが用いられていますが、近年バンコマイシン耐性腸球菌(VRE:バンコマイシン・レジスタント・エンテロコッキー)の急速な院内感染の広がりが見られるようになり、VREからバンコマイシン耐性遺伝子がMRSAに伝搬されることが危惧されています。実際に、VREからの耐性遺伝子の伝播ではありませんが別の機構から、バンコマイシン耐性を獲得したヘテロ耐性MRSAが、国内でも院内感染として確認されるようになりました。
現在もMRSAは進化し続けています。
心臓は全身へ酸素を送るため、生体のポンプとして休むことなく収縮・拡張という活動を続けています。心電図(ECG)とは、心臓が拍動する時に発生する弱い電流を、波形として記録したものです。電流を体に流す検査ではありませんので、痛みはありません。
<検査で分かること>
波形の異常やその出現頻度によって種々の不整脈・狭心症・心筋梗塞等の病気を疑うことができます。
<検査の手順>
1.ベッドの上に仰向けになり、胸と両手首・足首を出して下さい(ストッキングは脱いで下さい)
2.胸に6ヶ所と両手首・足首の4ヶ所に電極を付けます
3.力を抜いて楽にしてもらいます
4.波形が安定したのを確認後、測定を開始します
<所要時間>
5分程度です
携帯用の小型心電計を装着して、長時間(ほぼ24時間)続けて心電図を記録する検査です。
<検査で分かること>
息切れ・胸痛・めまい・動悸・吐き気などの自覚症状の原因が心臓にあるかどうかの判断や、不整脈の種類や重症度などを評価するために行います。
<検査の手順>
1.胸の5か所にシール状の電極を貼り、小型心電計を装着したままお帰りいただきます
その際に『行動記録カード』をお渡しするので、記録中の大まかな行動や、自覚症状等を記載して下さい(症状が心電図変化に一致しているかを知ることができます)
2.翌日来院し、心電計を取り外します
<所要時間>
●電極の貼り付け、説明などに10〜15分程度かかります
●記録時間は基本的には24時間ですが、多少前後することがあります
<記録中の注意>
● 心電計装着中は入浴やシャワーは禁止です(水にぬれると機械が壊れてしまいます)
● 普段と同じように生活して下さい。軽い運動や仕事は問題ありません(安静にしている必要はありません)
● 電極をつけた所にかゆみの出る場合がありますが、出来るだけ触らないようにして下さい
(電極外れなどがあると、とり直しになる場合があります)
電動式で動くベルトコンベアーの上で歩行やジョギングを行うことで心臓に一定の負荷をかけ、その間にどんな症状が起こるか、あるいは心電図や血圧にどんな変化が起こるかみる検査です。
<検査で分かること>
主に不整脈や狭心症の診断のために行います。
■ 検査の手順
1.胸の10か所にシール状の電極を付け、腕に血圧測定用のカフを巻きます
2.運動靴を履いて、ベルトの上を歩行、またはジョギングしてもらいます
3.ベルトの速度と傾斜を変えて負荷の程度を変えながら記録します
<所要時間>
一般的には30分程度です
エコー検査は耳では聞こえない高い周波数の音(超音波)を体にあてて、その反射波を画像にする検査で、リアルタイムに心臓の断面像を映し出すことができます。
超音波は身体に害を及ぼすことはありませんので、安心して検査を受けて下さい。
※当検査室では心エコーの他にも、乳腺エコー(女性技師が担当)・甲状腺エコー、健診の腹部エコーも放射線科部と共同で行っています。
<検査で分かること>
心臓の大きさ、動き、血流の状態を観察し、心筋梗塞や弁膜症など、さまざまな心疾患の診断に役立てます。
■ 検査の手順
上半身裸でベッドに横になります
胸にゼリーをつけ、プローブ(超音波を送受信する器具)をあてて検査します
※必要に応じて、息止めをしてもらうことがあります
<所要時間>
30〜60分程です(状況により前後します)
肺機能検査は肺の大きさや働き、空気の通り道である気道の閉塞の有無を調べる検査です。
口で息をしていただく検査ですので、特に痛みはありませんが、できるだけいっぱい大きく息を吸い込んだり、吐き出したりしていただきます。正確に検査するには、患者さんご自身の精一杯の努力が必要となりますので、ご協力お願い致します。
<検査で分かること>
肺機能障害の有無、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の障害パターンや重症度の評価に用いられます。その他、手術中の呼吸管理を安全に行うための術前検査としても行います。
<検査の方法>
当院では、肺活量と努力性肺活量(フローボリューム)の2種類の肺機能検査を行っています。肺活量は息をどれだけ大きく吸って吐けるかをみる検査で、努力性肺活量は吐き出しの勢いをみる検査です。
<肺活量の検査手順>
1.マウスピースを口でくわえてもらい、鼻をクリップでとめさせてもらいます
2.口だけで普通の呼吸を数回してもらいます
3.検査技師のかけ声に合わせて、胸いっぱい大きく息を吸って、吐けなくなるまで大きく息を吐き出して下さい
<努力性肺活量の検査手順>
1.マウスピースを口でくわえてもらい、鼻をクリップでとめさせてもらいます
2.口だけで普通の呼吸を数回してもらいます
3.検査技師のかけ声に合わせて、胸いっぱい大きく息を吸って、勢いよく一気に「フーッ!」と、吐けなくなるまで吐き出して下さい
<所要時間>
5分程度です
脳は外界からの情報を収集し、全身へ様々な命令を伝達しています。この脳の活動に伴って発生する微弱な電気の変化を記録したものが脳波です。
脳波は頭に皿状の電極を付けて記録しますが、電流を体に流す検査ではありません。痛みはありませんので、安心して下さい。
<検査で分かること>
波形の異常や出現頻度によって、てんかんや意識障害、器質性脳障害などの診断や経過観察等に用いられます。
■ 検査の手順
1.ベッドに仰向けになります
2.頭皮に20本前後の皿状の電極をつけます
3.目を閉じて安静にしてもらいます
4.開閉眼:声掛けに合わせて、目を開いたり閉じたりしてもらいます
5.光刺激:目の前で光がパチパチします。眩しい感じがしますが、目を閉じて楽にしてもらいます
6.過呼吸:「吸って、吐いて」の声に合わせて、3分間深呼吸をしてもらいます
7.睡眠:必要に応じて睡眠中の脳波を記録します(眠ってから15分ほど記録します)
8.検査終了後、電極をはずします
<所要時間>
● 電極装着から検査終了まで約40分程です
● 睡眠脳波を記録する場合は、すぐ眠ることが出来れば約1時間程度で終わります
<注意事項>
● 検査前日には洗髪をして下さい(体調不良時は不要です)。頭皮が汚れていると上手く記録できません
● 整髪料などの使用はできるだけ避けてください
● 当院では小児の場合は睡眠脳波も記録しています。検査当日は寝不足状態で来院していただいています
● 検査時はピアスや髪留め、マスクは外していただきます
神経伝導検査は、末梢神経に外部から刺激を与え、その反応を波形として記録したものです。
<検査で分かること>
手足の末梢神経に障害があると、しびれや手足に力が入らないなどの症状が現れます。波形の大きさや伝導速度から、神経障害の有無・程度の評価をします。
■ 検査の手順
1.手の場合は袖を肘の上の方まで、足の場合は靴下やストッキングを脱ぎ、膝の上までズボンをまくって下さい
2.ベッドの上で横になってもらい、電極をつけてから神経に刺激を与え検査します
(※個人差はありますが多少の不快感・痛みを伴います)
<所要時間>
20〜30分程度です(検査部位によって多少異なります)
両腕と両足首の血圧を測定し、足首と腕の血圧の比と、血液が心臓から手足に届くまでの時間を同時に調べます。動脈硬化を総合的に評価するために行います。
<検査で分かること>
ABIは足の血管が狭窄していないか、PWVは血管の硬さが分かります
■ 検査の手順
1.両腕、両足首を出して、ベッドに仰向けになります(ストッキングは脱いで下さい
2.両腕、両足首に血圧計のカフを巻き、心電図の電極と心音マイクをつけます
3.5〜10分程安静にしてもらいます
4.両腕、両足首の血圧を同時に測定します
5.2回測定して終了です
<所要時間>
15〜20分程です
<注意事項>
透析をしている等、血圧を測ってはいけない方の腕や足がある方は申し出て下さい
新生児聴覚スクリーニング検査とは、聞こえの異常を早く発見するために、赤ちゃんに行う検査です。聞こえに異常のある赤ちゃんは、500人から1,000人に1人といわれています。聞こえに異常があることに気づかずにいると、言葉の発達が遅れたり、お母さんとのコミュニケーションがとりにくいなどの支障がおきます。気づきにくい赤ちゃんの聞こえの異常を早くみつけて、適切な支援につなげるために行う検査です。
<検査で分かること>
検査にパスすれば、検査の時点では赤ちゃんの聴力は正常と考えられます
<検査の方法>
当院ではOAE(耳音響放射)という方法と、AABR(自動聴性脳幹反応)という方法の2種類行っています。どちらの検査もまったく痛みはなく、検査による害もありません。赤ちゃんが起きていると検査できないので、授乳するなどしてぐっすり眠らせてください。
■ OAEの検査手順
1.眠っている赤ちゃんの耳に耳栓のようなイヤホンをあて、小さな音をきかせます
2.音に反応して耳の奥からかえってくる反射音を、専用機で自動分析します
■ AABRの検査手順
1.眠っている赤ちゃんのおでこ、うなじ、頬(または肩)の3か所にシール電極をはります
2.赤ちゃんの耳にヘッドホンをあて、小さい音をきかせます
3.音に反応しておこる脳の電気的反応を、専用機で自動分析します
<所要時間>
赤ちゃんが眠っていればOAEは2〜3分、AABRは10分程です