肥満外科手術

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肥満外科手術のご案内

 新型コロナウイルス一色の今日この頃ですが、医を司る者には冷静に状況を見究める眼が求められます。世界全体における新型コロナウイルスによる死者数は累計約223万人とされています(2021年2月2日現在)。一方、世界全体における糖尿病、心筋梗塞や脳卒中などの心血管障害、がんによる死者数はそれぞれ、1年間に137万人、1779万人、956万人と報告されています(2017年)。肥満やメタボリックシンドロームを背景とするこれらの疾患は、新型コロナウイルスよりも桁違いに多くの人命を毎年コンスタントに奪い続けているのです。加えて、肥満は新型コロナウイルス顔負けの勢いで世界中に蔓延(=パンデミック)し続けています。こうした肥満やメタボリックシンドロームに対する有効な切り札として、肥満手術が注目を集めています。米国では肥満手術の件数が大腸癌の手術件数を凌ぐほどです。肥満手術は胃や小腸を切り貼りする手術であり、肥満が比較的少ない日本でも2014年に腹腔鏡下スリーブ状胃切除(胃の大部分を切除する、図1参照)が保険適用となりました。北海道で腹腔鏡下スリーブ状胃切除を行っている施設は限られており、道東では当院のみとなっています。

腹腔鏡下スリーブ状胃切除は2000年頃に、より複雑な肥満手術である胃バイパス術の前座として行われはじめました。腹腔鏡下スリーブ切除である程度痩せてリスクを減らしてから、比較的合併症が多い胃バイパス術を行うという戦略です。ところが、腹腔鏡下スリーブ状胃切除だけでも高い減量効果と代謝改善効果が得られることが分かり、手術内容がシンプルで術後の合併症が少ないことも相まって世界中に広がり、いまや最もメジャーな肥満手術となっています。胃の大部分を切除することで食欲が低下して減量効果が得られると考えられますが、それ以外にも、手術によって腸内細菌の構成が変わったり、内分泌系のホルモン動態や胆汁酸の代謝が改善したり、自然免疫が健全化して炎症が抑えられたり、神経系を介して脳の活動が健全化したりと、様々なメカニズムを経て代謝が改善することが分かっています。肥満手術による減量効果と代謝改善効果は複数のランダム化比較試験(最も信頼性が高いと考えられているタイプの臨床試験)で実証されています。


 2020年6月、当院外科で道東初となる腹腔鏡下スリーブ状胃切除を施行しました(図2参照)。7、8月にも1例ずつ同手術を施行しました。いずれの症例も体重100kg前後、BMI(体重÷身長÷身長)35kg/m2程度でしたが、目立った術後合併症は発生せず、術後5-7日で退院となりました。術後数ヶ月で、体重が20-30kg程度減少しています。患者様から「体が軽くなった」「汗をかかなくなった」「イビキをかかなくなった」「手術を受けてよかった」といったご感想を頂いています。外来で術後患者様に会うたびに目に見えて痩せているのが分かり、医療を提供する側の我々も肥満手術の劇的な効果を実感しています。今後も3症例の腹腔鏡下スリーブ状胃切除を予定しています。


 肥満手術診療は単に手術を行うだけでなく、管理栄養士による生活習慣指導、必須栄養調合食品であるフォーミュラ食の導入(自費で購入する必要あり。1日1~2回の食事から置き換えます。図3参照)、内科診療(毎日の体重記録、二次性肥満の除外、薬物療法など)を並行して行います。手術には出血や消化液漏れなどの危険が伴いますが、これを最小限にすべく、術前にできる限り減量を行います(原則として、診療開始時の体重から5%以上減少しなければ手術は行いません)。安全に手術を行う準備として、睡眠時無呼吸症候群に対して持続気道陽圧療法を導入したり(導入先は他院になります)、精神神経薬を調整したり、心疾患や血栓の有無を精査したりします(術前の大まかな流れに関して図4参照)。術後は多くの症例が減量しますが、食事がおろそかになってしまうと容易にリバウンドしてしまいます。このため、術後も糖尿病センターの受診を継続する必要があり、医師、看護師、管理栄養士などと相談しながら、良好な生活習慣を維持することや薬物療法を併用することで減量や代謝改善を長期持続できるよう努めることが重要です。

 腹腔鏡下スリーブ状胃切除を保険適用で行うには、6ヶ月以上の内科治療で減量できないこと、診療開始時にBMIが35kg/m2以上で糖尿病、高血圧症、脂質異常症のうち1つ以上の代謝疾患を合併していることが必須条件となります。上述したように、手術だけ受けて簡単に痩せられるわけではありませんが、体重がなかなか減らない、食事や運動に気をつけているのに糖尿病、高血圧症、脂質異常症が良くならない方、釧路赤十字病院はあなたに腹腔鏡下スリーブ状胃切除を提供できます。より健康に生きるために一緒に頑張ってみませんか?釧路赤十字病院外科外来まで気軽にご相談ください(0154-22-7171 内線716)。